ヨーロッパのスクウォット/自主管理スペース・ガイド(1)

KUZEB(スイス・ブレムガルテン)編

<KUZEB(スイス・ブレムガルテン)編>

KUZEB(KulturZentrum Bremgarten)は、スイス・チューリッヒ近郊の町ブレムガルテンにある自主管理の文化センターである。町の中心に位置し、ブレムガルテン駅からは徒歩1分もかからない。隣にはブレムガルテン高校がある。
ブレムガルテンの河原に暮らしていたホームレスとヒッピー数人が寒さをしのぐために、大きな裁縫工場だった空き家をスクウォット(不法占拠)したことがきっかけとなり、90年にKUZEBはスタートした。

KUZEB(スイス・ブレムガルテン)編
スイス・ブレムガルテンにあるKUZEB

空き家に暮らしはじめた者と地元の活動家が、行政と警察による排除に対して抵抗を続け、自主管理の文化施設として建物を再利用するという趣旨に賛同を求めるキャンペーンの結果、大家との直接交渉がはじまる。正式な契約書を交わすことは拒否し、口頭のみの契約という条件で、月々の家賃の支払いや、住居目的としないなどの大家の要求を受け入れ、合法の自主管理スペースとなった。家賃は月に約8万5千円である。
3~4階建ての建物が敷地内に3棟もあるKUZEBには、自分たちで改修したいくつものスペース−−食堂、ライブハウス、木工・鉄工所、アトリエ、スポーツジム、インフォショップ、裁縫室、シルクスクリーン工房、演劇の稽古場、映画館、暗室、0円ショップなど−−がある。それらのスペースや設備は、暮らしや文化を消費社会から自分たちの手に取り戻すための取り組みや、新しい自律的社会や生活形態を実践するための場所として活用され、様々なイシューの抵抗運動を準備する場所としても利用される。

KUZEBの食堂

KUZEBの鍵の所有者はおよそ80名で、鍵を開けたものが、利用するスペースと集った人々に対して責任をもたなければならない。毎月第一第三の火曜日に鍵の保持者の総会を開き、そこで運営方針や問題点の改善方法などについて話し合う。
地元産のオーガニック食材をつかったカンパ制のフォルクス・キューケ(人民キッチン)は、ほぼ毎晩開かれている。料理を作りたい者が希望日をスケジュールに書き込み、料理を食べたい者も希望日に名前を記す。自発性に任せるこのようなシンプルな方式で、日替わりで料理人が決まり、毎晩15人ほどが利用している。もちろん、自分の皿は自分で洗わなければならない。ビールなどの飲み物は基本的に原価で販売するが、それ以上のカンパを歓迎する。その飲み物のカンパ収入だけで、毎月の家賃をほぼ賄うことができるという。

KUZEB(スイス・ブレムガルテン)編
KUZEB内にある木工・鉄工所

KUZEBは、「レトロダクション(retroduktion)」というモバイル・キッチン・グループの拠点でもある。大規模な抵抗運動や、ECOキャンプなどでの大規模な炊き出しを担うモバイル・キッチンは、環境にやさしく搾取のない食材と調理法による完全菜食の料理を通して、運動をサポートしながら、同時に運動の一部であろうとする試みである。基本的にスクウォットや自主管理スペースを拠点とする運動体であり、大きな運動が立ち上がるたびに(最近ではパリでのCOP20対抗アクション)、ヨーロッパ各地からいくつかのモバイル・キッチン・グループが出動する。「レトロダクション」では、使い捨ての食器は使わず、調理のための燃料もガスではなく薪を使っている。300リットルの巨大な鍋も、KUZEB内の鉄工所で自分たちの手で作ったものだ。
KUZEBは、以上のような日常的な実践をとおして、アナキズムとエコロジーの思想に基づいた、もう一つの社会や生き方が可能であるということを証明しようとしている。
(成田圭祐)

*この記事は「文献センター通信 第35号(2016年6月20日)」の掲載記事に新たに写真を追加したものです。

KUZEB(スイス・ブレムガルテン)編


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